マスリタチルドレンズビレッジ (Masulita Children’s Village)
ウガンダには、経済的な理由や親の病気などで、親元から離れて暮らす子供たちが数多くいます。 親戚がその子を引き取って暮らしているようなケースも珍しくありませんが、残念ながら誰にも面倒を見てもらえずに路頭に迷ってしまう子供たちも数多く存在します。
この記事を読んでくださっている皆さまの多くが、「ストリートチルドレン」という言葉を耳にしたことがあるのではないかと思います。
では、「ストリートチルドレン」と聞いて、どんな子供の姿を思い浮かべるでしょうか?
彼らは他の子供とどんな違いがあるのでしょうか?
彼らはストリートチルドレンとして生まれてきたのでしょうか?
彼らはストリートチルドレンではありません。彼らはただ路上から保護されたというだけで、本来は他の子たちと同じように、幸せに生きる権利を持つ、かけがえのない存在です。
しかしながら、様々な背景から権利が十分に享受されていない状況があります。
今回は、そんな子供たちの背景に潜む様々な課題について、彼らのために35年以上寄り添い続けてきたウガンダのNGO「Uganda Women’s Effort to Save Orphans (UWESO) 」のお話を通して、お伝えしていきたいと思います。
目次
Uganda Women’s Effort to Save Orphans(UWESO)
UWESOは、1986年に、現大統領を務めるムセベニ大統領 (1986年〜2022年現在まで大統領)の大統領夫人によって率いられ、内戦孤児・HIV/AIDS孤児を救済することを目的に設立されたNGO団体です。
35年以上に渡る歴史の中で、社会の中で脆弱な立場に置かれている、より多くの子供たちの利益と権利を守ることに全力を尽くし、またその保護者のニーズに応えるために、活動の幅を広げてきました。
UWESOは、「Healthy children living in a peaceful world of opportunity」をビジョンに掲げ、より多くの子供たちが、平和な世界の中に生き、健康と機会(チャンス)に恵まれる社会を作り出すことを目指しています。
マスリタチルドレンズビレッジ(Masulita Children’s Village)の目的
UWESOが運営するマスリタチルドレンズビレッジは1989年に設立され、子供たちの居住スペース・農場・職業訓練の3つの要素を持った施設です。
この施設は、「孤児院」ではなく、トランジットセンター(日本でいう更生施設が近いイメージ)として運営され、路上から保護された子供たちが保護者のもとに再定住するまでの間、安心感や自己肯定感等を育みながら、様々な可能性を発見できるようにサポートしています。
この施設の受け入れ可能人数は、本来100名程度ですが、2022年現在、路上から保護された、1歳から18歳(推定年齢)、約300人の子供たちがここで生活をしています。一体なぜ、施設の受け入れ人数を大幅に超えて、子供たちを受け入れることになったのでしょうか?
マスリタチルドレンズビレッジで暮らす子供たちの背景
マスリタチルドレンズビレッジでは、2022年8月18日と31日の2回にわけて、新しく約280名の子供たちを受け入れました。
彼らはウガンダの首都、カンパラの路上で、赤信号の度に車を囲み、窓を叩き、手を差し出してお金を稼ぐ、物乞いをしていた子供たちです。彼らは親をなくした/親元から逃げ出してきたというわけではありません。ウガンダのカラモジャという地域から、集団でカンパラへ連れてこられて、携帯電話で親と連絡をとり、路上で稼いだお金を親に送金していた、そんな子供たちです。
彼らの背景には、大人が裏で手を引いている、組織化されたビジネスが潜んでいます。
ウガンダでは、感染症の流行や急激な人口増加等、様々な理由から貧困に陥る人が多発しています。この常習化されていた物乞いビジネスも貧しい地域で暮らす人たちの収入源となっており、物乞いをする子供たちの数も増加し、問題視されています。
このような状況に対して、KCCA(Kampala Capital City Authority)と言われるウガンダの首都カンパラの町の管理を担う団体が、ビジネスに関わる大人の検挙、子供の一斉保護を行った結果、マスリタチルドレンズビレッジでも約280名の子供たちを新たに受け入れることとなりました。
路上での生活では、暴力、性的虐待、不当労働、恐喝、嫌がらせの被害者となったり、薬物使用や軽犯罪に手を染めたり、不衛生な生活環境によって健康を損ねたり、様々な危険性があります。もちろん学校へ通うこともできません。幼いころから物乞いビジネスの輪の中に組み込まれ、学校へ通えていなかったことから、ウガンダで広く使われている英語やガンダ語の読み書きができず、10歳以上の子供に対しても、初等教育から進める必要がある状況です。
彼らの出身地である、ウガンダ北東部のカラモジャ地域は、ウガンダの中でも非常に貧しい地域の1つです。昨今の感染症の流行や世界情勢の影響に加え、干ばつの影響もあり、現在餓死者がでるほどの状況に陥っています。人口の41%に相当する人が食糧不足の状態にあるとも言われており、その数は急激に増加しています。また、治安も悪化し、安全性にも課題がある状態です。このような状態を子供たち自身も重く受け止めており、「早く路上に戻ってお金を稼ぎ、家族を助けたい」と施設から脱走することもあります。
カラモジャのおかれる緊迫した状況の中、そして物乞いビジネスの負のサイクルが断ち切れていない中では、子供たちを再定住させたとしても、再び路上に戻ってくる可能性が大いにあります。また、子供を収入源として頼りにしている状態から、保護者が精神的にも経済的にも抜け出さなくては、子供たちが学校に通うこともできないでしょう。
そのため、彼らを保護者の元にすぐに戻すことが非常に難しく、UWESOは彼らをどうサポートしていくのか、協議を重ねています。
マスリタチルドレンズビレッジでの生活
ここで暮らす子供たちは、下記のような活動をしながら生活をしています。
上記に加えて、2022年10月から「SOLTILO Bright Stars FC (ソルティーロ・ブライトスターズFC)」の協力を得て、週1回のサッカークラスを開始しました。
SOLTILO Bright Stars FCは、サッカー元日本代表の本田圭佑選手がオーナーを務めるウガンダプロサッカークラブです。彼らは「Africa Dream Soccer Tour」と題し、ウガンダの子供たちのために、ボランティアでサッカー教室を開いており、このクラブに所属するコーチや選手がマスリタチルドレンズビレッジに来て、指導してくれています。
この活動は楽しむという要素だけではなく、ルールを守る、協力するといった社会スキルを学ぶ貴重な機会になっています。
子供たちは、彼らを想う大人たちの心強いサポートを受けながら、ここまで述べてきたような様々な学びの機会を体験していきます。そして、手や頭に、流されない知識を身に着けることで、子供たちが自分の力で、自分にとっての“最良の居場所”をつくりだすことのできる、自立した大人へと育っていきます。
マスリタチルドレンズビレッジへの支援の現状
マスリタチルドレンズビレッジは、ウガンダ国内だけではなく、ウガンダ国外からも注目度が高く、これまで沢山のゲストを迎え、彼らの支援に支えられてきました。
施設内にある牛舎や温室ハウス等は、ウガンダの農畜産業漁業省 (MAAIF)の機関の一つあるNational Agriculture Advisory Services (NAADS)によって寄贈されました。
しかし、施設の継続的な運営をするための定期的な金銭支援を現状十分に受けられておらず、さらに施設の受け入れ可能人数を超えた子供たちを新たに受け入れたことから、その運営は大変厳しい状況となっています。
衣食住が優先されているとはいえ、衣食住も十分に提供できているとは言い難い状況です。例えば、子供たちの衣類や下着類は不足し、サイズに合わない、破れた服を着たり、子供たち同士で取り合ったりしています。また、ベッドも十分にないため、2人で1つのベッドを共有しています。
衣食住で手一杯な状況ですので、当然ながら子供たちの娯楽や教育のために使える資金はごくわずか。子供たちは鉛筆1本とノート1冊を大切に使い、勉強しています。
マスリタチルドレンズビレッジと日本の関係
現在UWESOに派遣されているJICA海外協力隊の永易亜季子さんがマスリタチルドレンズビレッジで活動を行っており、ここで暮らす子供たちの支援にあたっています。
永易さんは、この施設で暮らす子供たちや、それをサポートするスタッフの方々の意見に耳を傾け、現在困っていることは何か、また、子供たちが必要としているものはないかなどに常に気を配り、子供たちの成長の手助けを担っていらっしゃいます。
子供たちのリストの作成や教育教材の作成、支援者の開拓など、彼女の活動は多岐にわたります。
例えば、子供たちが職業訓練で制作するクラフト品のアイテム選定や販売先ルートの開拓等を模索し、先にも記した通り、施設の運営資金が厳しい中、少しでもその助けになればと日々前向きに活動に取り組んでいます。
また、永易さんはマスリタチルドレンズビレッジで暮らす子供たちにとってはアイドル的存在で、永易さんがこの施設を訪れると子供たちが一斉に永易さんの元に駆け寄り「Akiko~!」と大声で呼び、一緒に手遊びなどをして遊んでいます。
日々、大きな変化のない生活を送る子供たちにとって、永易さんは子供たちの心の拠り所となっているようです。
まとめ
マスリタチルドレンズビレッジの施設運営は大変厳しく、子供たちの生活環境を必要十分に満たせていない状況が続いています。
施設に来て数カ月、子供たちは徐々にマスリタチルドレンズビレッジを「居場所」だと感じるようになっていますが、ストライキをしたり、泣き出したり、脱走をしたりすることもあり、精神的にまだまだ不安定な部分もあります。
そんな中、永易さんの前向きなサポートに子供たちは笑顔に溢れ、いつも永易さんが施設に訪れるのを待ちわびています。
精神的な健康は子供たちの成長には欠かせない大事な要素の一つです。
永易さんの残りの任期の期間、永易さんのご活躍を応援し、私たちも一緒に寄り添って子供たちの成長をサポートしていけたらと思います。
UWESOにJICA海外協力隊として派遣されている
永易亜季子さんの自己紹介
初めまして。永易亜季子と申します。当初中米派遣だったところ、新型コロナウイルスの影響で任国振替となり、ご縁があって2021年10月末からJICA海外協力隊としてウガンダにやってくることになりました!現在、UWESOというNGOのスタッフとして、コミュニケーション(広報PR)と青少年活動の2本を軸に活動中です。子どもたちの笑顔は世界共通、彼らからエネルギーをたくさんもらい、日々格闘中です!
【記事内参考ページ】
1. Uganda Women’s Effort to Save Orphans(UWESO)
・ホームページ:https://uweso.org/
・Facebook:https://www.facebook.com/uweso1987
・Twitter:https://twitter.com/UWESO1
2. SOLTILO Bright Stars FC (ソルティーロ・ブライトスターズFC)
・Facebook https://www.facebook.com/Soltilobrightstarsfc/
・Twitter https://twitter.com/soltilo_uganda
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